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北岡元『インテリジェンス入門』


本書の初版が出版されたのは2003年ですが、2009年には第2版が出ています。

情報史研究会編『名著で学ぶインテリジェンス』では、日本語で書かれたテキストとして紹介されています。(※1)

また、恐らく日本初の本格的なインテリジェンスの教科書である、小林良樹著『インテリジェンスの基礎理論』では、わが国の代表的な学説として、本書の「インテリジェンス」の定義に言及しています。(※2)

著者の北岡氏は、本書のほか、『インテリジェンスの歴史』『仕事に役立つインテリジェンス』なども刊行した、わが国の著名なインテリジェンス研究者の一人です。

北岡氏は、外務省の国際情報局で課長を務めるなど、インテリジェンスの実務家出身の研究者でしたが、現在は駐エチオピア公使です。


本書はインテリジェンス・サイクルの理論的な考察が中心ですが、インテリジェンスの秘匿と保全や、人材育成についても触れられています。

「インテリジェンス・サイクル」とは、インテリジェンス(判断・行動するために必要な知識)を生産する過程のことですが、簡単な図にすると、以下のようになります。(図参照)





シンプルなインテリジェンス・サイクルの考え方JPEG





「カスタマー」とは、インテリジェンスを利用して意思決定を行なうもののことを、「情報サイド」とは、インテリジェンスを生産しカスタマーに配布するもののことを指します。

「リクワイアメント」は、カスタマーによる“このようなインテリジェンスがほしい”という具体的な要求のことです。

情報サイドは、カスタマーのリクワイアメントを満たすインテリジェンスを生産して、配布します。

“サイクル”とある通り、通常、1回転だけでは終わりません。

簡単な図(平面図)では一面的なことしか分からないので、本書では立体図も用いて考察を進めていきます。


本書は4部構成となっており、大体以下のように要約できると思います。


第1部では、平面図と立体図の検討を通して、インテリジェンス・サイクル全体を眺めます。

第2部では、リクワイアメント伝達から始まり、カスタマーと情報サイドの関係性、インテリジェンスの元になるインフォメーションの収集・分析など、インテリジェンス・サイクルの一連の流れを、それぞれの段階ごとに考えます。

第3部では、国家安全保障の現場での、インテリジェンス・コミュニティについての考察と、民間企業の現場でインテリジェンス・サイクルを機能させる方法を、CI(Competitive Intelligence:米国の国家情報組織が過去に培ってきたインテリジェンスの手法を民間企業に適用したもの) を元に考察します。

第4部では、冷戦崩壊後の脅威の多様化、利害関係の複雑化により、(国家安全保障上の)インテリジェンスを巡る環境が変化したことを指摘し、CI の考え方を参考に、新しいインテリジェンス・サイクルのモデルを提示します。


特に第1部は、インテリジェンスの基本を、インテリジェンス・サイクル全体を通して理解できるので、私は何回も読みましたね。

「判断・行動するために必要な知識」「初めにリクワイアメントありき」「初めにカスタマーの利益ありき」といった本書のキーワードを押さえたうえで、第2部以降を読んでいくと良いでしょう。


個人的な感想としては、「絶えず変化する現実、絶えず変化するインフォメーション、絶えず変化するインテリジェンス、絶えず変化するカスタマー、絶えず変化するリクワイアメント」は、方丈記の「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」を思い起こしました。

「絶えず変化する現実」という言葉は、インテリジェンスを考える上で、常に頭に入れておかなければならないと思いました。


初心者にも安心して薦められる良書だと思います。




※1 情報史研究会編『名著で学ぶインテリジェンス』日経ビジネス人文庫、p.25

※2 小林良樹著『インテリジェンスの基礎理論』立花書房、p.6




北岡元著『インテリジェンス入門[第2版]―利益を実現する知識の創造』慶應義塾大学出版会、2009


テーマ : 実用書
ジャンル : 本・雑誌

日本型「スパイ機関」のつくり方

少し古い話になりますが、「中央公論」2013年5月号に、自民党の河野太郎氏・民主党の馬淵澄夫氏・みんなの党の山内康一氏による連名で、<日本型「スパイ機関」のつくり方>という提言が載っています。

先日、図書館で借りてきたので、この提言についてのメモをしておこうと思います。


提言の特徴としては、以下の5点が指摘できます。

① (日本版NSCだけでは不十分として)対外インテリジェンス機関の新設を提言していること

② 新設された対外インテリジェンス機関の果たす役割を、公開された情報源を元にしたインテリジェンス活動(オシント)と、(在外公館に外交官の身分で派遣する)人的情報源を元にしたインテリジェンス活動(ヒュミント)としていること

③ 現在、日本で情報機関と呼べる組織の定員と予算を示したうえで(平成24年度)、新設される対外インテリジェンス機関の人員と予算を、具体的に述べていること(キーワードは、“身の丈に合った対外インテリジェンス機関”)。

④ 国会議員が党派を超えて取り組むべき課題を挙げていること

⑤ これらを超党派の国会議員が連名で提言していること




この提言を以下に要約してみます。
なお、要約は私(ブログ管理人)が5回程度読み込んだうえで、このブログの文体で表現したものです。
誤読している部分がある可能性もありますが、その場合は当然、ブログ主に責任があります。



2012年9月に中国の漁船1000隻が、大挙して尖閣諸島に向かっているという報道が流れました。

現在の日本には対外インテリジェンス機関はありませんが、もしこれがあったならば、もっと早くから関連の情報(インフォメーション)収集・分析を行い、(総理大臣などの)政策決定者はより的確で冷静な判断ができたはずです。

この件に関しては事態はエスカレートしなかったものの、次回も同様の結果となるとは限りません。

(以上、p.94)


日本を巡る安全保障環境は厳しさを増しており、これに対応するためにも、(日本の)外交・安全保障の体制を見直さなければなりません。

特に必要なことは、中長期的な戦略の策定と、国家安全保障上の重要事項に対して、責任ある判断を下すことです。

安倍晋三総理大臣は、日本版NSCの創設に強い意欲を示しています。
総理大臣のために、外交・安全保障上の戦略を練る専属機関(NSC)が今まで存在しなかったことは、明らかに問題でした。

しかし、日本版NSCだけでは不十分です。
急激な戦略環境の変化に対応していくためにも、対外インテリジェンス機関を設置するべきです。

(以上、p.95)


インテリジェンス改革の必要性は、過去に何度も叫ばれてきましたが、(※)今までの日本は、インテリジェンスを軽視してきたので、具体的なアクションは取られませんでした。

しかし、日本版NSCの設置が現実になりつつある今、日本のインテリジェンスを巡る状況も変わりつつあります。

NSCが機能し始めれば、その活動に必要な情報を提供するよう、関係機関に(今までよりも)はっきりとした指示を出すようになるはずです。

現在の日本で情報機関といえるのは、内閣官房内閣情報調査室、内閣衛星情報センター、外務省国際情報統括官組織、防衛省情報本部、警察庁警備局、法務省公安調査庁といった機関です。

これら各機関の人員の合計は4500人、予算は1300億円あります。
しかし、官僚組織の縦割りの問題から、これら機関の間で、機微な情報が共有され難いという問題も指摘できます。

だからこそ、総理大臣が的確な判断を下すために、NSCの戦略策定機能だけでなく、既存の組織の枠を超えた対外インテリジェンス機関を新設するべきなのです。

(以上、p.96)


私たちが提案する対外インテリジェンス機関の中心的な役割は、相手の意図に関するインテリジェンスを入手することです。

公開されている情報を丹念に分析すること(オシント)こそが、まずは全ての基本です。

スパイから得られた情報(ヒュミント)にせよ、通信傍受から得られた情報(シギント)にせよ、衛星画像から得られた情報(イミント)にせよ、これらが何を意味するかを理解するためには、公開情報を丁寧に分析しなければなりません。

それと同時に、人的情報源を元にしたインテリジェンス(ヒュミント)をも重視しなければなりません。

ヒュミントの意味は、「諜報活動」や「スパイ活動」とされますが、誤解を恐れずにいうならば、私たちは日本も諜報活動をすべきだと主張しているのです。

(以上、p.97)


日本が必要としている戦略情報を収集する「スパイ」は、諸外国で人的なネットワークをつくり上げ、それを駆使して情報収集を行い、人工衛星の画像や公開情報だけでは分からない、相手国の意図を探ることが主な任務となります。

もし対外インテリジェンス機関を新設したら、まずはインテリジェンス機関員を外交官の身分で在外公館に派遣し、ヒュミントに従事されることから始めようと思います。

既存の情報機関では規模や人事に問題があり、ヒュミントを有効に行なえていません。
だからこそ、私たちは対外インテリジェンス機関の新設を主張しているのです。

私たちは、“身の丈に合った対外インテリジェンス機関”の新設を目指します。

近年の厳しい外交・安全保障環境に対応するためにも、東アジア(具体的には朝鮮半島・中国・ロシア)と西太平洋を、情報収集・分析の主要な対象として想定しています。

(以上、p.98)


新設される対外インテリジェンス機関の規模としては、まずは人員500人、予算200億円程度あれば十分でしょう。

新しい機関をつくるのだから、最初の段階で如何にして有能な人材を集めるかが鍵になります。
各国それぞれの地域専門家はもちろん、様々な分野に専門知識を持った人材を集めたいものです。
それらは既存の情報機関だけでなく、民間からも幅広く登用していきたいと考えています。

オシントはそれでいいとして、問題はヒュミントですね。
こちらは、ほぼ0から始めるわけですから、即戦力を望むのは難しいです。
しかし、10年後20年後を見据えて、今からきちんと取り組んでいくべきです。

(以上、p.99)


“対外インテリジェンス機関を有効に活用する”ために、私たち国会議員が党派を超えて取り組まなければならない課題を、3つ指摘しておきます。

1つ目は、情報保全体制を強化することです。
今の日本は、情報漏洩時の罰則が軽すぎます。
国務大臣はもとより、国会議員に対しても適宜守秘義務を課すべきです。
また、セキュリティクリアランス(機密にアクセスする権限)の制度も、確立することが望ましいです。

2つ目は、対外インテリジェンス機関に対する民主的統制の仕組みをつくることです。
政府機関である以上は予算の監査があるのは当然ですが、それ以上に重要なのは、国民による信託を受けた国会議員による統制です。
対外インテリジェンス機関幹部の指名承認や、守秘義務を委員に課したうえで国会に情報委員会の設置、予算の承認などを行なうよう、仕組みを整えたいです。

3つ目は、「情報の政治化」を防ぐことです。
「情報の政治化」は諸外国でも問題になっている事柄ですが、本来、客観的でなければならないインテリジェンスが、何らかの政治的な事情により、客観性が損なわれてしまうことを指していいます。
非常に難しい問題ですが、チェック機能を制度として埋め込むことにより、「情報の政治化」が起こり難くなるようにしたいです。

(以上、p.100~101)


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テーマ : 雑誌
ジャンル : 本・雑誌

インテリジェンスが先か、カスタマーが先か?

インテリジェンスについてメモしたり、関連の書籍を読みながらつらつらと考えたりしているのですが、たまにはブログを更新しようと思ったので、ここにアップしてみます。

簡単なメモ程度ですが……



インテリジェンスの(安全保障レベル以外にも民間企業レベルにも使用できる)普遍性のある定義として、「判断・行動するために必要な知識」(※1)というのがあります。

インテリジェンスにもいくつかの側面がありますが、(※2)この定義は、「狭義のインテリジェンス」といってもよいかと思います。

これ(インテリジェンス)はつまり、「(自分が)何らかの意思決定を迫られている」状況にあるという前提の元に、その自らの判断、今後の行動を根拠付けるもののことです。(※3)


「インテリジェンスを利用して意思決定を行なうもの」のことを、「カスタマー(customer)」といいます。


(以下は少し個人的に考えたことなのですが)カスタマーをカスタマー足らしめるものは、「自らの置かれた状況に対する認識」(次第)なのではないか? と。

“自分は今、どのような状況に置かれているのだろうか?”
“(自分を取り巻く)状況は今後、どのように変化していくのだろうか?”
“自分の利益を増大させるチャンスがあるのではないか?”
“自分の不利益を軽減させるには、どうすればよいのだろうか?”

このような意識を持ったものこそが、切実にインテリジェンス(判断・行動するために必要な知識)を求めます。

すなわち、「カスタマー」とは、「インテリジェンスを欲するもの」といえるのではないでしょうか。

上記から導かれる結論として、「インテリジェンス(判断・行動するために必要な知識)が先にある」のではなく、「(インテリジェンスを求める)カスタマーが先にある」といえると思います。(※4)


主に北岡元著『インテリジェンス入門』を読みながら考えたり、メモしたことを元にブログ記事にしてみました。


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テーマ : 日記
ジャンル : 政治・経済

警察白書等にみる北朝鮮の対日諜報活動

個人的に興味があったので調べてみました。

可能な限り、自分の意見や主張ではなく事実をまとめたつもりですが、警察庁ソース(「警察白書」昭和48年~)ばかりな点では限界があります。

個人的なメモです。


Ⅰ.北朝鮮による対日諜報活動の概略
Ⅱ‐①.北朝鮮スパイは何をやっていたのか?
Ⅱ‐②.“補助者”獲得の方法
Ⅱ‐③.密出入国場所はどこか?
Ⅱ‐④.北朝鮮の工作船は何をやっていたのか?
Ⅲ.北朝鮮本国でのスパイ教育
Ⅳ.日本人拉致の目的は何か?
Ⅴ-①.北朝鮮による、現在の対日工作はどうなっているのか?
Ⅴ-②.北朝鮮に対する輸出入規制違反はどの程度あるのか?





Ⅰ.北朝鮮による対日諜報活動の概略

わが国で諜報関連事件の監視・摘発等を行なっているのは警察庁警備局ですが、北朝鮮絡みの諜報関連事件の摘発件数は約50件あり、これは第2位のソ連・ロシアの約2倍です。(※1)

北朝鮮は、わが国で日本に関する情報収集・工作を行なうだけでなく、わが国を舞台として韓国に関する情報収集・工作を行なってきました。

わが国には、2011年時点で約55万人の在日韓国・朝鮮人が居住しており、(※2)韓国に関する情報収集や工作活動を行なう“補助者”(※3)の獲得に好都合な国家でした。

また、わが国にはスパイ防止法がありませんので摘発が難しく、その分、スパイ等は活動しやすかったようです。(※4)

警察白書の記述の変遷から、冷戦時代に日本が置かれていた状況と対日工作を振り返りましょう。



戦後の我が国におけるスパイ組織は、その混乱と空白に乗じて作り上げられたといわれている。

すなわち、共産圏からの帰国者の中に関係者が送り込まれたり、厚い居住外国人の層と膨大な数にのぼる短期入国外国人の中に組織を拡大したりして存続してきたといわれている。

これらのスパイが収集する情報の範囲は、極めて広範にわたり、米軍、自衛隊の編成、装備、基地、施設などの軍事機密をはじめ、我が国の基本的な外交政策、経済政策などの機密に属するものから、重要生産施設、運輸施設、人的資料、地理的資料などにも及び、その収集技術も、科学の進歩を反映して一段と巧妙性を高めている。

昭和48年「警察白書」より引用



我が国は、自由主義陣営に属する主要国であることから、ソ連、中国、北朝鮮等の共産圏諸国からのスパイ活動が多くみられ、とりわけ北朝鮮は、日韓両国の交流関係や約65万人の在日朝鮮人に着目して、我が国にスパイを潜入させ、日本に対するスパイ活動はもちろん、韓国に対するスパイ活動及び非公然工作活動を行っており、昭和25年6月の第一次北朝鮮スパイ団事件以来、53年までに37件60人に上る北朝鮮関係スパイを検挙している。

これらスパイは、直接我が国の政治、外交、防衛、経済等の国家機密、科学技術等に関する情報の収集に当たり、又は、我が国を舞台として第三国に対する同様のスパイ活動や対象国の孤立化、弱体化を企図した非公然工作活動を行っている。

スパイ活動等を行う工作員は、外交官、特派員、貿易商、技師等といった身分を隠れみのにして合法的に入国するものと、夜陰に乗じて沿岸などからひそかに潜入して活動するものなどがある。

さらに、これらのスパイは、金銭欲、異性関係、親族関係等の個人的弱点を巧みに利用して外国人のほか日本人を手先に仕立てる例が多い。

これらの手先となった者は、スパイ活動であることを知りながら積極的に加担するものや、無意識に利用されているものもある。

しかし、多くの場合、我が国でスパイとして検挙されるのは、出入国管理令、外国人登録法、国家公務員法等の違反が認められた場合であり、我が国には直接スパイ活動を取り締まる法規がないことから、スパイ活動等の実態が顕在化するのは氷山の一角にすぎない。

昭和54年「警察白書」より引用



スパイ活動のねらいについては、従来は、我が国の政治、経済、外交、防衛に関する情報、米軍軍事情報、韓国の政治、軍事等に関する情報の入手が中心であった。

しかし、近年のスパイ活動は、従来のものに加えて、我が国の各界に対する謀略性の強い政治工作活動や我が国の高度科学技術に重点を置いた情報収集活動、さらには海外にいる日本人を利用した活動等、様々な方法や目的により行われている。

(中略)

北朝鮮は、韓国革命による朝鮮半島統一実現に向けて、我が国を足場とした対韓工作等を一層活発化させている。

すなわち、北朝鮮は、韓国の国会議員、牧師、女子大生ら反政府活動家を日本経由で秘密裡に北朝鮮に迎え入れるなど、我が国を足場とした対韓工作を活発に行っているほか、親朝世論の拡大等をねらって、我が国の各界関係者等に対する訪朝招請、各種代表団の派遣等により、我が国各界各層に対する働き掛けを活発に行っている。

一方、北朝鮮工作員は、様々な手段により我が国に密入国し、在日韓国人、朝鮮人に成り代わるなどしてスパイ活動に従事しているが、最近では、日本人を拉致し、その戸籍を盗用して日本人に成り代わるなど、その手ロも悪質化の度合いを一層深めてきている。

例えば、昭和52年の「宇出津(うしつ)事件」、53年の一連のアベック拉致容疑事案、60年の「西新井事件」等では、北朝鮮が、このような戸籍取得等目的として、日本人を拉致したとみられる。

また、朝鮮総連は、北朝鮮に対し、その指導によって、物心両面からの支援活動を行っている。

平成2年「警察白書」より引用




Ⅱ‐①.北朝鮮スパイは何をやっていたのか?

日本を舞台にしての対韓工作等を行なっていたようです。

〔金鶴萬事件〕

金は、昭和49年2月中旬ごろ、北朝鮮スパイとして2万5,000米ドル等を持って、鳥取県下の海岸にゴムボートを利用して上陸し、横浜市内に居住していた在日朝鮮人と帰化日本人の2人を補助者に獲得して、北朝鮮からの暗号指令を受けながらスパイ活動を行っていた。

金のスパイ任務は、我が国の軍事、経済、外交に関する情報の収集及び韓国に対する諸工作であったとみられるが、金の我が国に潜入以来1年余りにわたる補助者を活用しての具体的な活動は、次のとおりであった。

[1] 来日する韓国の政府高官、知識人を獲得しようとしていた。
[2] 韓国内に革命組織を作り、その指導育成のための連絡ルートを設定しようとしていた。
[3] 活動資金捻出のため、パキスタンにおける約6億円のサルベージ事業計画を推進していた。
[4] 神奈川県下に居住している在日朝鮮人の資産家や事業経営者の調査をしていた。
[5] 北朝鮮の社会主義国家建設のためという名目で、補助者に乗用車5台を提供させ、これを北朝鮮に発送していた。
[6] 補助者に対して、潜伏場所及び在日朝鮮人等に対するスパイ教育用のアジト(家屋)を設定させていた。

昭和51年「警察白書」より引用




Ⅱ‐②.“補助者”獲得の方法

北朝鮮に家族がいる在日朝鮮人に対して、家族の肉声が入っているテープを提示し、“補助者”になるよう強要していたようです。

また、北朝鮮スパイは、従来から我が国における潜伏場所確保や補助者獲得の方法として、北朝鮮に両親等のいる在日朝鮮人にねらいをつけ、その肉親の情を利用していたが、本件の場合も補助者を獲得するに当たって、北朝鮮に住む実母の肉声を録音したテープを携行し、脅迫的な言動によって補助者になることを約束させるとともに、これを北朝鮮に送り込んでスパイ教育を受けさせていた。

このようなテープを使っての補助者の獲得は、本件が初めての検挙事例であった。

昭和51年「警察白書」より引用




Ⅱ‐③.密出入国場所はどこか?

北陸地方のほか、東北地方、近畿地方、中国地方、更には九州地方にまで目を付けていたようです。(※5)

〔水橋事件〕

Lは、大学在学中の49年秋ごろから、Pに北朝鮮工作員になることを説得され、工作員としての教育訓練を受けるため、54年4月24日夜、富山県水橋海岸から北朝鮮工作船でひそかに北朝鮮へ出国した。

北朝鮮平壌市郊外の「招待所」と称する建物で約2箇月間の訓練を受けたあと、6月末の深夜、再び北朝鮮工作船で福井県敦賀の海岸にひそかに上陸した。

Lに与えられた任務は、韓国に革命を起こすための組織を日本や韓国に作ることや、北朝鮮工作員の不法出入国の新たな場所となる海岸の調査をすることなどであった。

Lに対する北朝鮮からの暗号指令は、市販の文庫本のひらがなを拾い出して数字化し、所定の方式により解読するという巧妙な方法が用いられていた。

日本海沿岸における北朝鮮工作員の不法出入国事案は、過去にも多く発生しているが、この事件でも、暗夜、工作船で海岸に接近しボートを使って工作員を運ぶという従来の方法が採られていた。

また、出国する場合には、出迎えのボートに小石をたたいて合図する「打石信号」という方法が依然として使われていた。

昭和56年「警察白書」より引用


また、1973年8月には山形県で(※6)、1974年9月には兵庫県で(※7)、1975年7月には青森県で(※8)、1981年8月には秋田県(※9)等で、密出入国による摘発がありました。




Ⅱ‐④.北朝鮮の工作船は何をやっていたのか?

やはり工作員を密出入国させていたようです。(※10)

〔渋谷事件〕

在日朝鮮人S(68)は、日本人や在日韓国人を工作員として訓練するため北朝鮮へ送り込むことを主たる任務とし、47年には、工作船を使った北朝鮮への密出国を図り、54年には、工作員に仕立てるため日本人男性に働き掛けて北朝鮮へ送り込むなど、北朝鮮から暗号指令を受けながら、十数年にわたってスパイ活動を行っていた。

平成元年「警察白書」より引用




Ⅲ.北朝鮮本国でのスパイ教育

ケースによって期間に違いはありますが、基本的には北朝鮮スパイは、本国でスパイ教育を受けています。
警察白書に具体的な記述がありますので、少々長いですが以下に引用します。

〔申栄萬事件〕

申は、昭和14年から4年間我が国に滞在し、この間、東京で新聞配達や牛乳配達をしながら中学に通っていたが、2年の時満州に渡り、官吏となり、20年春日本陸軍に入隊した。

終戦後は北朝鮮に帰郷し、21年秋朝鮮労働党に入党、翌年人民軍に入り、幹部学校を経て中尉に昇進したが、隠していた戦前の経歴が発覚し、24年軍人の身分をはく奪され、以後教員生活に入った。

44年高等農業学校の校長をしていた時に労働党中央に召喚され、約3年間にわたるスパイ教育を受けた。

スパイ教育としては金日成思想を揺るぎないものにするための政治思想教育をはじめ、スパイに必須の無線機の組立て、修理方法、アンテナの展張要領、交信訓練を含む無線技術、電信及びラジオ放送による具体的な通信連絡方法、暗号の作成、解読方法、暗号手紙の作成方法、写真技術の教育訓練のほか、射撃、空手訓練、岩登り訓練、体力練成のための行進訓練が行われた。

更に、日本に潜入し、スパイ活動に従事するための教育として、潜入、上陸訓練、日本及び韓国の政治、経済、社会、軍事等万般にわたる情勢、日本人の生活様式、日本語等の教育及び警察に対する防衛対策、北朝鮮本国との秘密の連絡方法、北朝鮮への帰還方法等についての教育、指導が徹底して行われた。

特に、日本人の生活様式及び日本語に関する教育では、日本で発行されているエチケットの本や、NHKの「新日本紀行」を収録した記録映画が教材に利用されたほか、約20日間にわたるソ連、東ドイツ、フランス等の海外旅行において、同地滞在の日本人と接触させての実習教育が施された。

また、日本警察に対する防衛対策では、職務質問や逮捕時における対応の仕方、尾行点検等についての細かい注意、指導が行われた。

なかでも「上陸するときに発見されて警察官に質問を受けるようなときには、無線機、乱数表等の秘密物件等の入ったリュックサックを素早く海に投げ込むこと、警察官の質問には、「私は、朝鮮民主主義人民共和国の水産庁直轄の指導員であるが、風波のため漂流状態で、ようやくここまで来たので助けて下さい。」といえばよい。」等と指導されたという。

昭和53年「警察白書」より引用




Ⅳ.日本人拉致の目的は何か?

工作員に対する“日本人化教育”及び、拉致された日本人に工作員が成りすますことが目的と思われます。
警察庁警備局の「焦点」に記述がありますので、以下に引用します。

日本人拉致の目的について、金正日国防委員長は「1つ目は、特殊機関で日本語の学習ができるようにするため、2つ目は、他人の身分を利用して南(韓国)に入るためである」と説明しました。

また、「よど号」犯人の元妻は、金日成主席(故人)から「革命のためには、日本で指導的役割を果たす党を創建せよ。党の創建には、革命の中核となる日本人を発掘、獲得、育成しなければならない」との教示を受けた田宮高麿(故人)から、日本人獲得を指示された旨を証言しています。

諸情報を分析すると、拉致の主要な目的は、北朝鮮工作員の日本人化教育や、日本に潜入した北朝鮮工作員による日本人拉致被害者へのなりすましのほか、金日成主義に基づく日本革命のための人材獲得にあるとみられます。

焦点」279号より引用




Ⅴ-①.北朝鮮による、現在の対日工作はどうなっているのか?

冷戦崩壊以降も、北朝鮮の工作船と思われる不審船が能登半島沖(1999)や九州南西海域(2001)に出没したり、入管法で検挙した在日朝鮮人に対する捜査の結果、対韓工作に携わっていたことが判明する等、(※11)北朝鮮による対日(日本を舞台とした対韓)諜報活動そのものは存在するようです。

現在、警察庁警備局は、北朝鮮による対日工作として、朝鮮総聯等を介した、北朝鮮に宥和的な日本人等を対象として展開される宣伝戦を警戒しているようです。

各界関係者に対する働き掛け等

朝鮮総聯は、朝鮮総聯、傘下団体等が主催する各種行事に国会議員、地方議員、著名人等を招待し、北朝鮮に対する理解、朝鮮総聯の活動に対する支援等を働き掛ける一方、北朝鮮に不利となる記事を掲載したマスコミに対する抗議を展開するなど、我が国の各界各層に対して硬軟織り交ぜた諸工作を展開している。

こうした中、22年5月22、23日、朝鮮総聯は、第22回全体大会を開催した。

同大会では、許宗萬(ホジョンマン)朝鮮総聯中央責任副議長が、「敬愛する将軍の領導の偉大性と不滅の業績に対する対外宣伝事業を展開して、日本各界の親朝人士達を固め、増やしました」と述べるなど、朝鮮総聯の北朝鮮に対する従属性を改めて明らかにしたほか、対日諸工作の成果を誇示した。

平成23年「警察白書」より引用




Ⅴ-②.北朝鮮に対する輸出入規制違反はどの程度あるのか?

冷戦時代にはココム(対共産圏輪出統制委員会)による共産主義国への貿易統制がありましたが、日本でも1986年、(※12)1988年(※13)にそれぞれ北朝鮮関連の違反事案がありました。

わが国は2006年以降、日朝間の輸出入を規制していますが、2011年時点までで18件検挙されています。(※14)

2008年に北朝鮮に不正輸出された奢侈品(しゃしひん)はピアノだったようです。(※15)

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テーマ : 北朝鮮問題
ジャンル : 政治・経済

インテリジェンス関連・新刊リスト2012(暫定版)

2012年に刊行されたインテリジェンス関連の書籍のリストです。

リンクが間違っていたり、抜けている本があったら指摘して頂けると有難いです。





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今年の目標は,「日本のネット情報の現状」の大幅な更新と,10記事位書くことですかね。

2015年1月4日,プロフィール更新

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