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非公開文書「町村レポート」

少し煽り気味な題名ですが,このレポートに言及している書籍は,「非公開」ないしそれに近いニュアンスで触れているので,このような題名にしてみました.

原文は不明ですが,存在自体はネットでも複数確認できますし,(※1)日本のインテリジェンスの教科書である,小林良樹著『インテリジェンスの基礎理論』にも記載があります.(※2)


今回,このレポートの当事者である,町村信孝氏と田村重信氏による関連書籍を入手したので,これらを元にして,その内容と作成過程を紹介したいと思います.


さて,「町村レポート」は,正式には「わが国の情報能力等の強化に関する提言」といいます.

この提言を取りまとめたのは,自民党「米国同時多発テロ事件対策本部」の下,町村信孝幹事長代理(当時)を座長として発足した,「情報収集等検討チーム」(以下,検討チーム)です.

2001年9月11日に米・同時多発テロが発生しましたが,その2日後の13日にはこの「対策本部」が設置され,その後,「検討チーム」発足という流れですね.

検討チームは,同年11月には日本国内で情報を扱う官庁である,内閣情報調査室・防衛庁(当時)・警察庁・外務省・公安調査庁などによるヒヤリングを行いました.

翌2002年,検討チームは1月9~13日の日程で訪英しました.
田村重信・丹羽文生著『政治と危機管理』によれば,訪英メンバーは以下の通りです.(※3)

団長:町村信孝氏
副団長:佐藤剛男氏

岩屋毅氏
後藤田正純氏
田村重信氏


訪英の目的は,関係者との意見交換を通して,以下の点を研究することです.(※3)

①情報収集機関の強化,特にテロ関連情報収集のあり方等
②情報の国際協力
③国民に対する必要な情報の迅速かつ的確な提供

具体的な訪問先や受けた説明も載ってますので(1ページ程度ですが),詳しくは同書でご確認ください.


検討チームは帰国後,国内の有識者から意見聴取を行いました.

その顔ぶれは,元外務省情報調査局長・岡崎久彦氏,外交評論家・船橋洋一氏,共同通信論説副委員長・春名幹男氏,世界平和研究所主任研究員・北岡元氏(※4)でした.(※5)


町村信孝氏によれば,検討チームによる研究の結果,日本のインテリジェンスの「致命的な」不十分さが浮き彫りになったそうです.(※6)
以下,具体的にみていきましょう.

①(個人差はあるものの)歴代の日本の政策決定者は,政策判断にあたって,情報の重要性をあまり認識していなかった
②情報の分析・評価能力の低さ.個人として優れた専門家がいても,政府全体で総合的な評価ができるシステムになっていなかった
③ヒュミント(人的な情報収集活動)が不足していた
④機密保護法制の整備があまりにお粗末


さて,上記のような課題がみえてきましたが,では具体的にどうすれば良いのでしょうか?
提言の原文は確認できませんでしたが,(※7)要約版は紹介されているので,これを見てみましょう.
町村氏,田村氏どちらの書籍でも触れられていますが,田村氏の方がより踏み込んで書かれているので,こちらを主に参考にします.(※8)

①合同情報会議を改編して合同情報委員会を設置する.それにあたり,情報コミュニティのメンバーとして,海上保安庁・財務省・経済産業省・金融庁等を加える
②情報共有を促進させるために,情報コミュニティの緊密化と秘密保持のための措置を強化する.各情報組織間の人事交流も積極的に行う
③ヒュミントを専門的に行う,対外インテリジェンス機関を新設する.英・SIS(通称MI6)を参考に,政策と情報を分離したうえで,対外情報収集業務に特化した組織とする
④国会に秘密保護の制度を整えた,「情報委員会」を設置する
⑤国内のテロ組織を撲滅する.新たにテロ対策法を制定するか,破壊活動防止法を改正し,テロ組織を規制する.また,公安調査庁の組織を見直す可能性を示唆している


あくまでも公表しても良い内容なわけですが,改めて読むと,外務省の「対外情報機能の強化に向けて」と似ていますね.

どちらも町村信孝氏が関わっているという共通点がありますが,なんと初期の段階では,「町村レポート」をベースに検討を始めたそうです.(※9)

対外インテリジェンス機関を外務大臣の傘下に置くと知ったときは,「外務省はこのような提言の場でも,省益の確保を目指すのだなぁ」とある意味関心していたのですが,検討のベースである「町村レポート」の段階で,そのような提案があったのですね.


以上,その存在自体は知られているものの,原文の確認はできず,ググってもほとんどヒットしない,「町村レポート」について書いてみました.




注釈

※1 「国家の情報機能強化に関する提言」「官邸のインテリジェンス機能は強化されるか

※2 小林良樹『インテリジェンスの基礎理論』p.174

※3 田村重信・丹羽文生『政治と危機管理』p.139

※4 ちょうど研究所でインテリジェンスを研究していた時期みたいですね.『インテリジェンス入門』が出版されたのは2003年ですけど.

※5 田村重信・丹羽文生『前掲書』p.141

※6 町村信孝『保守の論理』p.100

※7 「町村レポート」に言及している書籍は少なくとも3冊ありますが,その記述は以下の通りです.

町村信孝『保守の論理』p.102
“それなら,具体的にどうすればいいのか.発表できる部分だけですが,「情報収集等検討チーム」の提言の要約を記してみます.”

田村重信・丹羽文生『政治と危機管理』p.141
“これは通称「町村レポート」と言われ,これまで非公開とされていたが,ここでは,その内容のポイントを紹介する.”

金子将史「相応の“実力”を持てるのか―日本」落合浩太郎編著『インテリジェンスなき国家は滅ぶ』p.312
“なお,自民党では,9・11テロ発生からほどなく,町村氏らが中心になってインテリジェンス機能強化について検討を行っている.2002年にまとめられた報告書は,小泉首相(当時)はじめ政府の要路(原文ママ)に提出されたが,世間の反応を慮って当時は公表されていない.”

※8 田村重信・丹羽文生『前掲書』p.141

※9 田村重信・丹羽文生『前掲書』p.145



参考

落合浩太郎編著『インテリジェンスなき国家は滅ぶ』亜紀書房,2011
小林良樹『インテリジェンスの基礎理論』立花書房,2011(旧版)
田村重信・丹羽文生『政治と危機管理』内外出版,2006
町村信孝『保守の論理』PHP研究所,2005


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