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「町村レポート」の意義―インテリジェンスの民主的統制に注目して―(追記あり)

以前に 非公開文書「町村レポート」 という記事を書きましたが,今回は国会会議録等を参照しました。

「わが国の情報能力等の強化に関する提言」通称「町村レポート」の重要性と,町村信孝氏のインテリジェンス改革への積極性を,部分的であれ示せるようにしたいです。
特に重視すべきは,情報委員会を国会に設置する(インテリジェンスの民主的統制の仕組みをつくる),という提言は2002年の「町村レポート」に源流があるのではないか,という点です(厳密には2000年の「アーミテージ報告」にも記載があります)。


さて,私が調べた限り,町村氏がインテリジェンスに強い関心を持つようになったきっかけは,2001年の米・同時多発テロです。
これは複数のソースを出せますが,直接的なものとしては, 第186回国会 議院運営委員会 第32号(平成26年6月11日(水曜日)) が挙げられます。

私もインテリジェンスに関心を強く持ったのは、二〇〇一年九・一一以来でございまして、そのときに、なるほど、こういうような、例えばあれは国際的なテロというびっくりするような事件だったわけですけれども、やはりああいうものをしっかりと事前にチェックできる、本当に、そういうものの実態がわかるというような努力をみんな各国していると。


また, 第185回国会 国家安全保障に関する特別委員会 第19号(平成25年11月26日(火曜日)) でも以下の発言があります。

九・一一、二〇〇一年のことでありますけれども、自来、このインテリジェンスの強化に何が必要なのか、こういう法制の整備も必要であるということに加えまして、対外の情報をもっとしっかりと収集する、そのための特別の機関が必要であるということを私は申し上げ続けてまいりました。
また同時に、専門家の人員の増加とかレベルアップとか、あるいは国内での人事改革等が必要なんだろう、こう思っております。



同時多発テロに衝撃を受けた旨を述べている国会議員としては,町村氏の他にも森まさこ氏と牧島かれん氏が挙げられます。(※1)


9.11を受けて自民・公明の与党は「テロ対策本部」を設置し,(※2)その下に「情報収集等検討チーム」を発足させ,町村幹事長代理(当時)が座長に就任しました。
同年11月,検討チームはインテリジェンスを扱う国内の官庁からヒヤリングを行い,(※3)翌年1月には,情報収集機関の強化の方向性やテロ対策について研究するために訪英しました。(※4)
同年2月には,国内の有識者からの意見聴取を行いました。(※5)
検討チームでの取り組みを踏まえて,同(2002)年中には「町村レポート」が作成され,政府の要路に提出されました。(※6)

未だに原文は公表されていませんが,町村氏の著書『保守の論理』にコンパクトな要約が記載されています。
ポイントは以下のような感じです。(※7)

①情報集約・分析機能強化のため,合同情報会議を改組し「合同情報委員会」を設置する
②対外インテリジェンス機関の新設
③国会に守秘義務付きの「情報委員会」を設置する


2005年4月,町村氏は外務大臣として「対外情報機能強化に関する懇談会」を立ち上げました。
同年9月まで計6回の議論を行った後, 対外情報機能の強化に向けて が発表されます。

田村重信氏によれば,この懇談会は「町村レポート」をベースに検討を始めたそうです。(※8)
「対外情報機能の強化に向けて」の原文はリンク先で見られますので,ご確認ください。

町村氏の活動はまだ続きます。
2005年末,再び自民党内にインテリジェンスの検討チームを発足させ,座長に就任します。
この「国家の情報機能強化に関する検討チーム」は,翌(2006)年6月, 国家の情報機能強化に関する提言 を取りまとめました。
国会への情報委員会設置も提言しました。


更に官房長官時代には, 情報機能強化検討会議 の議長を務めました(これは「議長は官房長官」と決まっていたからですが)。

自民党が「インテリジェンス・秘密保全等検討チーム」をいつから設置していたのかはちょっと分からないのですが,少なくとも2011年には活動していたようです。(※9)(※10)
特定秘密保護法案でも,検討チームの座長を務めていました。


ここまでのキャリアを見る限り,国会に設置される「情報監視審査会」の会長に就任する可能性は高かったと思いますが,「上がりポスト」の衆議院議長に選出されたそうで,おめでとうございます。

以上,2001年の同時多発テロによりインテリジェンスに関心を持った町村信孝氏の足跡を整理してみましたが,「国会への情報委員会設置」を提言している文書についても言及しておきます。

時系列順にすると,私が把握している限りだと以下のようになります。
(追記)民主党「インテリジェンスNSCワーキングチーム」の提言を改めて読んだところ,「国会への情報委員会設置」に相当する項目がありましたので,追加します。(2014.12.25)

(2000年,「アーミテージ報告」)
2002年,自民党「わが国の情報能力等の強化に関する提言」(町村レポート)
2006年,PHP総研「日本のインテリジェンス体制」
2006年,自民党「国家の情報機能強化に関する提言」
2007年,自民党「総合的な外交力強化へのアクション・プラン 10」
2011年,民主党「対外インテリジェンス能力強化を通じた戦略的国家への脱皮」
2012年,自民党「J‐ファイル2012」
2013年,『日本型「スパイ機関」のつくり方』(超党派の国会議員による提言)

インテリジェンス(機密保護)と民主社会(情報公開)は緊張関係にありますが,日本も民主国家である以上は,やはりインテリジェンスの民主的統制(行政府による統制であれ立法府による監視であれ)の仕組みをきちんと整えるべきではないかと思います。

不十分ながらも,「情報監視審査会」を運用することで経験を積んでいき,いずれはより日本の文化に合った統制・監視の制度をつくって頂きたいな,と(最適解は無いかもしれませんが)。

その他にも行政府・立法府だけでなく,マスメディアによる報道やNPOの活動,研究者による啓蒙に一般市民の関心も必要です。

とはいえ,選挙によって国民の信託を受けた,国会議員による適切な監視がなされることが,まずは望ましいと思います。


後半はやや筆が滑ったかな? という気もしますが,「国会への情報委員会設置」自体はインテリジェンスの民主的統制の手段の一つになり得ますし,私が把握している限り,それを最初に提言した「町村レポート」の意味合いは,その知名度と比較して大きいのではないでしょうか?

なお,内容の完成度という点では,PHP総研の「日本のインテリジェンス体制」が一番高い思われます。



注釈
※1 第185回国会 国家安全保障に関する特別委員会 第11号(平成25年11月12日(火曜日))
※2 第162回国会 安全保障委員会 第11号(平成17年6月14日(火曜日))
※3 田村重信・丹羽文生『政治と危機管理』p.139
※4 田村重信・丹羽文生『前掲書』pp.139-141
※5 田村重信・丹羽文生『前掲書』p.141
※6 第159回国会 予算委員会第三分科会 第1号(平成16年3月1日(月曜日))
※7 町村信孝『保守の論理』p.103
※8 田村重信・丹羽文生『前掲書』p.145
※9 インテリジェンス機能強化への動き
※10 活動記録


参考
田村重信・丹羽文生『政治と危機管理』内外出版,2006
町村信孝『保守の論理』PHP研究所,2005

対外情報機能の強化に向けて
日本のインテリジェンス体制
国家の情報機能強化に関する提言
総合的な外交力強化へのアクション・プラン 10
対外インテリジェンス能力強化を通じた戦略的国家への脱皮
J‐ファイル2012

第159回国会 予算委員会第三分科会 第1号(平成16年3月1日(月曜日))
第161回国会 外務委員会 第2号(平成16年11月1日(月曜日))
第161回国会 外務委員会 第4号(平成16年11月12日(金曜日))
第162回国会 安全保障委員会 第11号(平成17年6月14日(火曜日))
第162回国会 外務委員会 第12号(平成17年7月13日(水曜日))
第162回国会 外務委員会 第14号(平成17年7月22日(金曜日))
参議院会議録情報 第168回国会 内閣委員会 第2号
第169回国会 予算委員会 第8号(平成20年2月14日(木曜日))
第176回国会 予算委員会 第7号(平成22年11月9日(火曜日))
第185回国会 国家安全保障に関する特別委員会 第9号(平成25年11月8日(金曜日))
第185回国会 国家安全保障に関する特別委員会 第11号(平成25年11月12日(火曜日))
第185回国会 国家安全保障に関する特別委員会 第19号(平成25年11月26日(火曜日))
第186回国会 議院運営委員会 第32号(平成26年6月11日(水曜日))

非公開文書「町村レポート」
特定秘密保護法案、提出検討に至る過程のまとめ―インテリジェンス改革の視点から―

自民党秘密保全PTの座長に就任しました
町村信孝オフィシャルホームページ「町村語る!」 今、日本にはインテリジェンス能力が必要です
インテリジェンス機能強化への動き 研究員コラム 金子将史

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ジャンル : 政治・経済

非公開文書「町村レポート」

少し煽り気味な題名ですが,このレポートに言及している書籍は,「非公開」ないしそれに近いニュアンスで触れているので,このような題名にしてみました.

原文は不明ですが,存在自体はネットでも複数確認できますし,(※1)日本のインテリジェンスの教科書である,小林良樹著『インテリジェンスの基礎理論』にも記載があります.(※2)


今回,このレポートの当事者である,町村信孝氏と田村重信氏による関連書籍を入手したので,これらを元にして,その内容と作成過程を紹介したいと思います.


さて,「町村レポート」は,正式には「わが国の情報能力等の強化に関する提言」といいます.

この提言を取りまとめたのは,自民党「米国同時多発テロ事件対策本部」の下,町村信孝幹事長代理(当時)を座長として発足した,「情報収集等検討チーム」(以下,検討チーム)です.

2001年9月11日に米・同時多発テロが発生しましたが,その2日後の13日にはこの「対策本部」が設置され,その後,「検討チーム」発足という流れですね.

検討チームは,同年11月には日本国内で情報を扱う官庁である,内閣情報調査室・防衛庁(当時)・警察庁・外務省・公安調査庁などによるヒヤリングを行いました.

翌2002年,検討チームは1月9~13日の日程で訪英しました.
田村重信・丹羽文生著『政治と危機管理』によれば,訪英メンバーは以下の通りです.(※3)

団長:町村信孝氏
副団長:佐藤剛男氏

岩屋毅氏
後藤田正純氏
田村重信氏


訪英の目的は,関係者との意見交換を通して,以下の点を研究することです.(※3)

①情報収集機関の強化,特にテロ関連情報収集のあり方等
②情報の国際協力
③国民に対する必要な情報の迅速かつ的確な提供

具体的な訪問先や受けた説明も載ってますので(1ページ程度ですが),詳しくは同書でご確認ください.


検討チームは帰国後,国内の有識者から意見聴取を行いました.

その顔ぶれは,元外務省情報調査局長・岡崎久彦氏,外交評論家・船橋洋一氏,共同通信論説副委員長・春名幹男氏,世界平和研究所主任研究員・北岡元氏(※4)でした.(※5)


町村信孝氏によれば,検討チームによる研究の結果,日本のインテリジェンスの「致命的な」不十分さが浮き彫りになったそうです.(※6)
以下,具体的にみていきましょう.

①(個人差はあるものの)歴代の日本の政策決定者は,政策判断にあたって,情報の重要性をあまり認識していなかった
②情報の分析・評価能力の低さ.個人として優れた専門家がいても,政府全体で総合的な評価ができるシステムになっていなかった
③ヒュミント(人的な情報収集活動)が不足していた
④機密保護法制の整備があまりにお粗末


さて,上記のような課題がみえてきましたが,では具体的にどうすれば良いのでしょうか?
提言の原文は確認できませんでしたが,(※7)要約版は紹介されているので,これを見てみましょう.
町村氏,田村氏どちらの書籍でも触れられていますが,田村氏の方がより踏み込んで書かれているので,こちらを主に参考にします.(※8)

①合同情報会議を改編して合同情報委員会を設置する.それにあたり,情報コミュニティのメンバーとして,海上保安庁・財務省・経済産業省・金融庁等を加える
②情報共有を促進させるために,情報コミュニティの緊密化と秘密保持のための措置を強化する.各情報組織間の人事交流も積極的に行う
③ヒュミントを専門的に行う,対外インテリジェンス機関を新設する.英・SIS(通称MI6)を参考に,政策と情報を分離したうえで,対外情報収集業務に特化した組織とする
④国会に秘密保護の制度を整えた,「情報委員会」を設置する
⑤国内のテロ組織を撲滅する.新たにテロ対策法を制定するか,破壊活動防止法を改正し,テロ組織を規制する.また,公安調査庁の組織を見直す可能性を示唆している


あくまでも公表しても良い内容なわけですが,改めて読むと,外務省の「対外情報機能の強化に向けて」と似ていますね.

どちらも町村信孝氏が関わっているという共通点がありますが,なんと初期の段階では,「町村レポート」をベースに検討を始めたそうです.(※9)

対外インテリジェンス機関を外務大臣の傘下に置くと知ったときは,「外務省はこのような提言の場でも,省益の確保を目指すのだなぁ」とある意味関心していたのですが,検討のベースである「町村レポート」の段階で,そのような提案があったのですね.


以上,その存在自体は知られているものの,原文の確認はできず,ググってもほとんどヒットしない,「町村レポート」について書いてみました.




注釈

※1 「国家の情報機能強化に関する提言」「官邸のインテリジェンス機能は強化されるか

※2 小林良樹『インテリジェンスの基礎理論』p.174

※3 田村重信・丹羽文生『政治と危機管理』p.139

※4 ちょうど研究所でインテリジェンスを研究していた時期みたいですね.『インテリジェンス入門』が出版されたのは2003年ですけど.

※5 田村重信・丹羽文生『前掲書』p.141

※6 町村信孝『保守の論理』p.100

※7 「町村レポート」に言及している書籍は少なくとも3冊ありますが,その記述は以下の通りです.

町村信孝『保守の論理』p.102
“それなら,具体的にどうすればいいのか.発表できる部分だけですが,「情報収集等検討チーム」の提言の要約を記してみます.”

田村重信・丹羽文生『政治と危機管理』p.141
“これは通称「町村レポート」と言われ,これまで非公開とされていたが,ここでは,その内容のポイントを紹介する.”

金子将史「相応の“実力”を持てるのか―日本」落合浩太郎編著『インテリジェンスなき国家は滅ぶ』p.312
“なお,自民党では,9・11テロ発生からほどなく,町村氏らが中心になってインテリジェンス機能強化について検討を行っている.2002年にまとめられた報告書は,小泉首相(当時)はじめ政府の要路(原文ママ)に提出されたが,世間の反応を慮って当時は公表されていない.”

※8 田村重信・丹羽文生『前掲書』p.141

※9 田村重信・丹羽文生『前掲書』p.145



参考

落合浩太郎編著『インテリジェンスなき国家は滅ぶ』亜紀書房,2011
小林良樹『インテリジェンスの基礎理論』立花書房,2011(旧版)
田村重信・丹羽文生『政治と危機管理』内外出版,2006
町村信孝『保守の論理』PHP研究所,2005


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